2018年8月1日水曜日

(273)里山に道を拓く <その22 葉月>


 
 
 
里山の中腹には、無縁の墓石や取り残された台座がある。
 
ある日、地主の立会いで話を聞いた。

 「この杉林は墓地でした。私の先々代のおじいちゃんが土葬された墓が
 
あり、子供の頃はお盆によくお参りしましたが、近年村の共同墓地に移し
 
ました」

草薮に、彼女は合掌した。

 ガンジス河支流にあるネパール・パシュパティナート寺院の石段に築かれた
 
ガート(火葬場)に枯れ木、薪が積まれている。白い布に包まれた亡骸を
 
男たちは聖なる川面にその足先を濡らし、薪の上に乗せる。

 長男が僧侶から預かった火をつけると炎が立ち上がり、サリーをまとった
 
女たち家族の驚愕の叫びが続き、絶えない。

やがて、屍と薪が崩れ落ちるとともに、泣き叫ぶ力も消えた。

 そして、くすぶる黒い塊は無造作に河に落とされた。
 

      ホタルが飛び交う蒸し暑い初更 青白い火の玉が 

      ふわりふわりと里に向かう 向山の焼き場から 

      老人の語りは 幼子を凍らせた 

      焼けた匂いを消そうと 残るラム酒もあとわずか

 
                                     片岡一郎(会員)










 

0 件のコメント:

コメントを投稿